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[性分化]

(東京医科歯科大学のWebSiteより転載)


[性染色体から個体の性へ]

 生殖腺の原基の外側は中胚葉から発生するが、中身の生殖細胞になる細胞群は胚葉が分化する前に始原生殖細胞として分化すること、始原生殖細胞は長い旅路の果てに生殖腺になるべく分化を始めた生殖隆起内に収まって、生殖腺原基ができることを述べた。生殖腺原基は、その後、発生の過程で精巣と卵巣に分化する。  脊椎動物では,生殖腺が分化するとともに、生殖細胞を生殖口まで運ぶ生殖輸管が雌雄で分化し、外部生殖器も雄と雌で異なる形態に分化する。こうした一連の分化の過程を見ていこう。


1.生殖腺の分化  始原生殖細胞が生殖隆起にたどり着く頃、凹みであった生殖隆起も変化する。生殖隆起は体腔上皮細胞から構成されているが、この細胞層が増殖、肥厚して、背方に向かって索状に伸びだす。この索状の組織の中へ生殖細胞が取り込まれる。こうしてできた、生殖細胞を含む索状の構造を、第一次性索と呼んでいる。ここまでは、男でも女でも生殖腺原基の構造は同じである。

やがて男では、第一次性索が網状組織を形成し、その最末端に薄い精巣網(rete testis)を作る。この生殖細胞が詰まった網状組織が、後に精細管(seminiferous tubule)になる。

一方女では、生殖細胞は生殖腺の外表に近いものを残し退化する。性索も退化する。残った上皮はやがて伸張し、第二次性索(皮索)を形成する。皮索はやがて生殖細胞を1個含む細胞塊に分かれる。これが原始卵胞になる。

こうして、精巣と卵巣の構造は、異なったものになる。

2.生殖輸管と外部生殖器の分化

1)生殖輸管の分化
 生殖腺の分化と平行して、生殖輸管の分化も進行する。上の図を見てわかるように、初めは男にも女にもウォルフ管とミュラー管が存在する。
男では、やがてミュラー管が退化してウォルフ管が残り、ウォルフ管は精巣上体と輸精管となる。 一方、女ではウォルフ管が退化し、ミュラー管が発達し、ミュラー管から輸卵管、子宮、膣の一部となる。

2)外部生殖器の分化
 さらに、これらの分化と平行して、生殖口、すなわち外部生殖器の分化も起こる。こうして、体内受精ができるような構造が分化してくるのである。

3)脳の性分化
 さらに脳の性分化がおこる。初めにわかったことは、脳が支配している脳下垂体の機能についてであった。前章でお話したように、脳下垂体からの黄体形成ホルモン分泌は、雄は定常状態を保つのに対して、雌では周期性があるので、これに注目して調べてみた。ヒトでは脳の性分化は胎内で起こるが、ラットでは生まれてから10日の間で起こる。そこで、出生直後のラット新生児の精巣を除去した。その結果、黄体形成ホルモンの周期的になった。逆に雌新生児にテストステロンを注射したところ、周期的奈黄体形成ホルモン分泌を示さず、定常的な分泌になってしまった。この結果は、精巣からのテストステロンが生まれてから10日の間に一過的に上昇して、脳を雄化していることを示している。これをアンドロジェンシャワーと呼んでいる。

 その後、視床下部の神経細胞の集団(これを神経核と呼ぶ)の大きさに、雌雄で差があることが見つかる。ゴルスキは、1980年に、脳内の内側視索前野という部分の神経核に、性差があることを示して、この体積の大小に性ホルモンが関与していることを証明した。このように性差がある神経核は、性的二型核(sexually dimorphic nucleus)と呼ばれるようになる。